炭粉良三の合気閑話

その十二　「捨て稽古の重要性」

浜口道場長の「『透明な力』を読む‐57‐」を読みました。
誠にもって、御意の一言です。

私は今まで、組手や乱取り、即ち自由攻防の稽古の重要性を主張して来ました。痛い思いをする試合も、そして顔をそむけたくなるような厳しく苦しい鍛錬も、全く否定する気などありません。
武道とは格闘技とは、そういうものです。それを知らない初心者の方々で武道や格闘技を目指そうという方々がもし、「愛から入る」と主張されるのなら、悪い事は言わない。今の内に良い外科病院を探しておかれる事です。

愛により相手が簡単に崩れるという経験を初心者が可能なのは、道場内の初心者用の稽古の中限定です。くれぐれも「万能」などとは思わない事です。これは何も武道や格闘技に限らず、治療術や人間関係でも同じ事が言えます。

断じてッ！！！
そんな甘いものではないッ！！！

苦しい修行を長年やって来た者がある日、武道の達人と出会った。力の入らぬ不可解なる技で翻弄された。
「参りました！」と弟子入り。
その名人は言った、「おぬしの技は強引じゃ。もっと自然に…そう、要らぬものを捨てて自然そのものになるのじゃ。さすればその自然さに、相手は自らの剛力が自らに返り、崩れるであろう。そう、あたかも自然の愛の如くに振る舞うのじゃ」
それを聞いたその弟子曰わく「そうだったのか！俺は今までなんて愚かな事をして来たのだろう。よし、今までの事は全て捨てよう！」
それを聞いた他の人が更に言う。
「何だ！それじゃはじめから何もしてなかった者と同じじゃないか！」

さて皆様、皆様はどう思われますでしょうか？やはり「何もしない方が良かったじゃないか」と思われるでしょうか？
実はこれ、武道においては最も大切な稽古の一つと言われる「捨て稽古」なのです。

突然、貯金のお話になります。ある真面目な人が少しずつお金を貯めていました。五年、十年、そして三十年も経った頃、その貯金はかなりの量になりました。
その人はある日その貯金を全て使って、ある高価な品を買いました。

ここで問題です。何故彼はそんな買い物が出来たのでしょうか？
答、当然ですがそれだけのお金が貯まっていたからです。買う事でお金はなくなりますが、変わりにその品が自分のものとなりました。
但し、はじめから貯金をしなかったら買えなかったのです(買い物によってお金がないという、貯金をしなかった人と同じ状態にはなりますが)。

さて、捨て稽古とは、これに似ています。
初心者には、まだお金が貯まっていません。だから捨てようにも捨てるものなどありません。

今まで自分が命がけで必死に培って来たもの。剛力、根性、技術、そしてプライド！
それらを一切がっさい綺麗に捨て去る行為。

私達は、それを「愛」と呼んでいるのです。


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