炭粉良三の合気閑話

その二十一　「零式掌法の誕生」

私が何故か気功(のようなもの)を使えるようになった事は、前章でも述べました。
この出来事は、まさに私の活法人生を根底から変えてしまいました。
以前の施術法でも、一般的に言って「奇跡」の範疇に入るかも知れない事態は数回起こしていましたが(だからこそ患者様の口コミで私の施術が広まったのですから)、しかしそれらは云わば内科的或いは精神的疾患であった為、殆どが患者様の「主観」がからんだ治癒でした。つまり客観的データを取る事は難しいケースが多かったのです。
ところが、外科的な場合は全く違います。現実に(物理的に)速やかに怪我が治る事実は、完全に客観視する事が出来るのです。それも携わられる医師の目の前で。
この事態に興味を持って下さった医師達は多く、彼等の御理解御鞭撻のお陰で私は初めて「現代医学」との接点を持つ事が出来ました。
それはどういう事かと言えば、それがたとえ内科的な疾患であったとしても、医学的データを取り客観視出来るステージを与えられたという事です。例えば先日、心電図を取っている患者様に施術した際、その心電図の波形まで美しく変化する事を私を含め、皆さんで目撃したのでした。ですが怪我とは違い、内科的疾患はその状態の改善(感)がデータを取るより早くに患者様本人に気づかれる場合が多く、その為ウワサはそれこそ千里を走ります。その結果、私の出張件数は二倍以上に膨れ上がり、もはや馴染みの酒場で呑むことさえ難しいという状態になってしまいました。
これは、大変有り難い事です。ひとえに皆様方のお陰と感謝しているのです。

だが……

これも前章で申し上げましたが、私は気功そのものを知りません。習った事もなければ研究した事、否、見た事すらありません。
そんな私が中国伝来の「気功」という言葉を使って良いものかどうか…

その世界には、優れた諸先生方、諸先輩方が既におられます。池袋の小坂正医師も、その中のお一人。
そのような方々に礼を執る為にも、私は自分の「気功のようなもの」を「気功」と呼ぶ事に、失礼を感じていたのです。
効果があるなしではありません、礼儀の問題です。

すると…

所用で関西に寄られた保江邦夫先生と久し振りに(短時間ながら)呑む機会があり、その際私はこれ又久し振りに保江先生から教えを頂いたのですが、その概念がどういう訳か自分の気功もどきの理合にピッタリと重なり合い、閃光の如く脳裏に、ある言葉が浮かんだのです。即ち、

「零式」！

「零式」とは元々、紀元二千六百年(神武天皇即位後二千六百年経ったとされる年で、昭和十五年がこれにあたる。そして翌昭和十六年から日本は米英に対し本格的な戦争状態に突入する)に開発された戦闘機を記念し、その戦闘機に冠された名前でした。その名前とは「零式艦上戦闘機」、通称「ゼロ戦」です。我々の年代の男にとって、ゼロ戦は忘れ得ぬヒーローでした。戦後十年経って生まれた我々ですが、戦争には負けたものの、ゼロ戦の優れた技術は実はアメリカを凌いでいた事などを、戦艦大和の悲劇と共に物語やマンガで少年時代の心に思い切り叩き込まれたものでした。だからもう、ゼロ戦のプラモデルはそれこそ毎日のように作ったものでした。
けれどもやがて「神風特攻隊」の話を聞き及ぶに至り、大きな衝撃を受けるのです。まだ子供だった私は紀元二千六百年記念の事など知らず、「ゼロ戦の『ゼロ』って、敵艦に体当たりして死に、自分をゼロにしてしまう意味なのか！」と勝手に想像してしまったのです。そして一度(ひとたび)そう思い込んでしまったが最後、その名が子供心にとても恐ろしくなり、以降「ゼロ戦」という言葉を聞くのが嫌になってしまったのでした。ところが…

保江先生が教えて下さった境地を元に突然自分が古くから抱えていたトラウマが瞬時に消えると共に、新しい解釈が湧き上がって来たのでした。

思えば、旧日本軍は「滅私奉公」という美しい我が国の美徳の意味をねじ曲げ、「国の為に死ね」と多くの若者達に教え強要した。それはあまりにも馬鹿げた間違いであった。真の「滅私奉公」とは、己を滅する事で自他共存、自他共栄を目指すべき道なのだ！だから「ゼロ戦」(自分をゼロにし戦いを放棄する)なのだ！と。
だが、そうやって死んで行かれた祖国英霊がおられてこそ、今の日本があるのも断固たる事実！

そうだ！これから自分はこの新型施術を「零式」と呼ぼう。
掌をあてるだけだから、「零式掌法」…更に保江先生の教えを記念し、

「零式冠光寺掌法」！

そう私は名付けました。
小坂正医師は「良い名前だ！」と大変喜んで下さいました。又、小坂医師とは知人の女医さんは「涙が出て来ました…」とわざわざメールして来て下さいました。

零式…ただ、掌をあてるだけ。
どの道、自分なんかの力では、何も出来ないのだ！
苦しんでいる人達を助けるなんて大それた事、自分ごときが逆立ちしたって無理！無理！！無理！！！

だから、捨てる！何もかも。
必死に学んで来た東洋医術の知識も、何もかも！
そして、どうせ精神集中なんて出来ない相談だから、自分が「これくらいで良いかなあ…」と思うまで、患者様や周りの人達と雑談でもしていれば良いのだ。

結果として疾患や怪我が治った時、
そこに神仏(摂理)が働かれたのだ。

もう、それで良い。

ただ、この事が…

どうか！患者様を救うだけに留まらず、自身を滅ぼす事で滅びる事はない祖国を信じ、散ってゆかれた多くの英霊へのレクイエムとなりますように。


追記、
そう言えば保江先生のお父様も、先の大戦において戦闘機乗りだったなあ……

尚、「零式冠光寺掌法」の名称は、保江先生がこれを了承された事、付記しておきます。。

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